この記事でわかること
- 人工培養肉は動物を屠殺(とさつ)することなく衛生的にも優れている
- 人工培養肉は、生産コストや健康面の課題も残っている
- あらゆる企業が人工培養肉に莫大な投資をしている
人工培養肉(クリーンミート)とは
人工培養肉は、人工肉の一種(培養肉と代替肉がある)で動物から細胞を分離し、培地中で培養することで作られる。
この過程で、筋肉細胞や脂肪細胞などの組織を作ることができる。この細胞を組み合わせることで、従来の肉と同じような食感や味を持つ肉製品を作ることができるのではと言われている。
培養肉=クリーンミートと呼ばれています。
人工培養肉(クリーンミート)のメリット
人工培養肉のメリットは以下の3つです。
- 衛生面で安心できる
- 動物を屠殺(とさつ)する必要がなくなる
- SDGsの考えにマッチしている
- 食糧危機の問題が解決できる
衛生面で安心できる
鳥インフルエンザのような食中毒の心配がなく、人工培養した肉は衛生的です。
人工培養肉は無菌であり、人獣共通感染症が発生する可能性もないと言われている。
動物を屠殺(とさつ)する必要がなくなる
これまで牛や豚などの動物を屠殺して食肉を生産していたが、人工培養肉は動物を殺さず培養して食肉を生産するため、動物虐待を減らすことができる可能性があると言われている。
SDGsの考えにマッチしている
従来の食肉生産では、温室効果ガスの排出、水質汚染、大気汚染など、かなりの量の公害が発生していた。
一方、人工肉の生産は、環境への影響が非常に少なくなると言われている。
食糧危機の問題が解決できる
食糧危機問題を解決するということもメリットのひとつです。
世界の人口は増え続け、2050年には97億人を超えると予測されています。
それに伴い人間が食べる肉の量も1.8倍になるという試算も出ており、このままでは将来の食料が足りなくなり、食糧危機が起こることも考えられます。
一部でも培養肉に転換できれば、これまで家畜に与えていた量の穀物を人間に供給することができ、食糧危機を回避することができると考えられる。
また、植林など他の用途に使える土地が増えるので、気候変動の緩和にもつながるといわれています。
人工培養肉(クリーンミート)のデメリット
デメリットもあり主に3つが挙げられる。
- 生産コストが高い
- 健康面の不安が残る
- 天然肉より味が劣る
生産コストが高い
人工培養肉は、開発初期段階にあることから天然肉より高価です。
将来的には技術が向上し、より商業的に利用できるようになるにつれて低下することが期待されています。
健康面の不安が残る
人工培養肉を摂取することによる長期的な健康への影響がまだ明らかになっていません。
天然肉は何千年も前から人類に食べられており、その栄養価や摂取に伴う潜在的な健康リスクについては十分に理解されている。
しかし、人工培養肉については、まだこれと同じレベルの理解が得られていない。
この分野では、明確な結論を出す前に、より多くの研究が必要であることに留意することが重要である。
天然肉より味が劣る
現在の技術では、天然肉の味に近づかず、おいしくないという声もあります。
天然肉と同じ味になるには、まだまだ時間がかかるため一般食として受け入れられのはしばらく先になると予想される。
人工培養肉の実用化に向けた世界の動き
培養肉の実用化に向けて、世界が急速に動き出している。
米国のコンサルティング会社ATカーニー社は、2040年には約60兆円の市場規模になると試算している。(※1)
アメリカ
アメリカ発の人工肉の会社2社を紹介。
- UPSIDE Foods(アップサイドフーズ)
- Mission Barns(ミッションバーンズ)
UPSIDE Foods(アップサイドフーズ)
元は、メンフィス・ミーツであり2021年に社名を変更を行いUPSIDE Foods(アップサイドフーズ)となった。
UPSIDE Foods(アップサイドフーズ)は2015年に設立されたアメリカのスタートアップ企業である。
2016年には、培養ミートボールの開発に成功。
翌年2017年に培養チキンを細胞ベースから生産することにも成功し、現在は培養シーフードも生産している。
UPSIDE Foods(アップサイドフーズ)はオランダの企業Mosa Meat (モサミート)よりも早く生産コストの削減に成功した。
同社はこれまでに18億円以上の資金を調達している。これにより、事業の規模を拡大し、より大規模に製品を生産することができるようになった。
Mission Barns(ミッションバーンズ)
Mission Barns(ミッションバーンズ)は、豚の細胞から培養した「人工ベーコン」の開発したアメリカのスタートアップ企業である。
動物を飼育・屠殺(とさつ)することなく、豚の細胞から豚肉を培養する方法を世界で初めて開発した。
オランダ
オランダ発の人工肉の会社2社を紹介します。
- Mosa Meat (モサミート)
- Meatable(ミータブル)
Mosa Meat (モサミート)
Mosa Meat (モサミート)は、世界初の培養肉ハンバーガーを開発するなど培養肉のパイオニア企業。
2013年には、1個3,500万円のハンバーガーが発売され、話題を呼びました。
また、牛胎児血清(FBS)の排除に成功し、培養液のコストを大幅に削減したことでも有名です。
Meatable(ミータブル)
Meatable(ミータブル)は、iPS細胞を使って培養肉を開発するスタートアップ企業でありオランダの起業家、Krijn de NoodとDaan Luiningの2人によって2018年に設立されました。
Meatable(ミータブル)の技術は再生医療分野の最先端の研究に基づいており、食肉の生産方法に革命を起こす可能性を秘めています。
日本
国内の人工肉の会社2社を紹介。
日清食品
日清食品が取り組んでいるのは、最先端の技術が必要とされる培養ステーキ肉。
単に牛肉の筋肉細胞を培養するのではなく、本物の筋肉の立体的な構造を再現するために、独自の積層法を開発したのです。
この方法は、従来の食肉生産方法とは大きく異なるものであり、日清食品では、将来的に培養ステーキ肉を大規模に生産できるようになると期待している。
インテグリカルチャー
インテグリカルチャーは、日本のスターアップ企業である。
低コスト細胞培養プラットフォーム技術「CulNet System™(カルネットシステム)」を開発した。
この「CulNet System™」の開発により、コスト削減が可能となり 現在はシンガポールのShiok Meats社と共同でエビの細胞培養肉の開発を行なっている。
※1:農林水産省
人工培養肉の課題
人工培養肉製品の開発には大きな進展が見られるものの、大きな課題も残されている。
例えば、味と食感の最適化、生産コストの削減、食品の安全性の確保などである。
とはいえ、これまでの進展から今後10年以内に商業的に実現可能な培養肉製品が登場する可能性が高いと言われている。
人工培養肉のQ & A
人工培養肉におけるQ & Aをまとめています。
- 人工培養肉のメリットは?
- 人工培養肉は何でできている?
- 人工培養肉の課題は?
- 人工培養肉の実用化はいつ?
人工培養肉のメリットは?
衛生的で、食中毒の心配がないということ。
これは、人工培養肉が無菌であるため、人獣共通感染症、つまり人工培養肉を食べることによって病気になる可能性がないであろうと言われている。
また、人工培養肉は動物虐待をすることなく生産でき、SDGsのコンセプトと合致しているというメリットがあります。
人工培養肉は何でできている?
人工培養肉は、実験室で培養液の中で増殖させた動物細胞から作られます。
細胞は通常、動物から小さな組織のサンプルを採取する生検から得られます。
得られた細胞を培養して作られるのが人工培養肉なのです。
人工培養肉の課題は?
人工培養肉の安全性は、研究者や消費者の間で重要な関心事となっている。
有害な細菌やウイルスが混入する可能性があるほか、適切に処理されないと肉に毒性がある可能性もあります。
また、生産コストや、実験室で肉を育てることの倫理的な意味合いも課題として挙げられる。
人工培養肉は世界の食糧危機を解決する可能性があると見る人もいれば、何としても避けるべきフランケンシュタインの怪物のようなものだと見る人もいる。
人工培養肉の実用化はいつ?
人工培養肉がいつ実用化されるかは、一概には言えません。
生産コスト、プロセスの効率性、消費者の需要など、考慮すべき要因はたくさんあるからです。
生産効率が悪いと、消費者にとって人工培養肉の価格が高くなりすぎる可能性や、消費者の需要も重要な要素である。消費者の需要が十分でなければ、人工培養肉は実用化されません。
まとめ
人工培養肉のメリット・デメリットを紹介しました。
世界では人工培養肉の研究のため投資が進められ実用化に向けて急速に成長しています。
課題は残るものの将来、主食として人工培養肉を食べる時代がやってくるのではないでしょうか。
参考資料
- 東京大学公共政策大学院「培養肉に関するテクノロジーアセスメント」
- 農林水産省「細胞農業の概要」